7月28日 愛とロマンの8時間コースを歩く(礼文島)
今日は、今回の旅のメインイベント「愛とロマンの8時間コース」を歩く。 コースは島の西岸をほぼ縦断する。 車道も通っていない自然の真っ只中を30km歩くのだと思うとわくわくする。 これを歩くために、ツアーのあるYHに泊まったかいあって、他のメンバーがいるから心強い。
昨晩は激しい雨が降ったようだが、朝は晴れあがった。 まずは始発のバスに揺られて島の最北端スコトン岬へ。 昨夜のミーティングで罰ゲームにひっかかってしまった私は、廃校になったスコトン小学校の前でスコトン小学校校歌を歌う羽目になった。
風の強い草原の丘を歩き出す。 海岸に出るとピンク色の撫子や黄色いエゾカンゾウなどいろいろ咲いている。 見たことのない花が現れると一つ一つ写真に撮っていった。
海抜0mから一気に170mまでそそり立つゴロタ岬へ。 登る前に眺めると、海からいきなり崖が立ち上がりその稜線は緑の芝生に覆われたように見える。 目の覚めるような美しさだが、風は強く、道はぬかるみ滑り、登りはきつい。 何度か休憩を入れる。 緑の草原と青い海と青い空のコントラスト、振り返れば、島の北に浮かぶ無人島海驢島(とどじま)が遠くに見下ろされ、たまらなく気持ちいい。 道の脇の草むらに寝ころんで空を見上げたら気持ちいいだろうなあ。
振り返ると岬の向こうに海驢島が。
ゴロタ岬
岬を下りて、草原の中の一本道を歩いていく。 こちら側は海岸に打ち寄せる荒波を見下ろす絶景だ。
しばらく行くと、「あなあき貝」の砂浜に出た。 この浜に落ちている貝は、不思議なことに貝の真ん中に錐で開けたような穴が開いているのだ。 先を急ぐので2、3枚にとどめておけと言われていたのに、5枚も拾ってしまった。 ここで既に数十分予定より遅れている。
また登りだ。 この辺りの道は木がなく、草ばかり。 草むらの中に見たことのない花がたくさん咲いている。 花のベストシーズンは6月だが、今見る花もみな素敵だ。
登ったり下ったり、やっと澄海岬(すかいみさき)の休憩所に到着。 名の通り澄んだ海が見られるそうだが、疲れて展望台まで行く気がしない。 まだ朝だが、みんなお腹が減って疲れきり、売店で座り込む。 島で作られている最北の牛乳だという道場牛乳を買って飲んだら、感激するほどうまかった。
このポイントで既に予定の50分遅れだ。 早く帰らないとYHの歓迎行事のメニューが一つずつ減っていくらしい。 4時間コースの人たちとはここで別れ再び歩き出す。
ここから次の休憩ポイント宇遠内までが一番遠く、トイレもない。 途中で催しても道端にはウルシが繁っているので、うかつにできないのだ。 ひたすらひたすら歩く。 1mくらいの背の低い草むらが延々と続き、風がビュービュー吹きすさぶ。 松の木が風の強さに曲がって、はいつくばるように生えている。
黙々と歩いていると、ああ今私は北海道に来て、北の道を歩いてるんだとじわじわ実感がわいてきて、嬉しくなる。 しんどいけれど歩くのが楽しい。「ウォーキングハイ」かな。
天候が悪くなってきた。 いつしか道は原生林の中に入り、霧が出てきた。 ウグイスが「ケキョケキョケキョ」と鳴いていて元気がいい。 が、ツアーのメンバーの中には、ペースの落ちてきた人が出てきて、休憩も増え始めた。 確かに一人では遭難してもおかしくない道だ。
長い長い森を歩き続ける。 みんなお腹ペコペコで、弁当を食べるポイントまで歩くことしか頭にない。 森が開け、砂の丘が出てきた。 弁当ポイントだ。
YHの「圧縮弁当」は期待して開けた瞬間がっかりする質素さだったが、それでも腹ぺこの身にはおいしくてガツガツ食べる。 お菓子を持ってきていた人にいただいたカールがこんなにうまいものだと思わなかった。 霧を含んだ風は冷たく、食べるうちに身体が冷えてきて、早々に歩き出した。
ここから宇遠内までは1.5kmくらいなので楽勝と思っていたが、実はここからが大変だった。 森を抜けると高度も下がり霧は晴れた。 海も見え始めた。
道が荒れ始め、崖の階段らしきでこぼこに足をかけそろそろと下りる。 来た道を見上げると、とても逆行はできそうにない急な崖だ。 海まで後一歩というところで「砂すべり」が現れた。 崖が砂状になっていて、ここを滑り降りる時男女が助け合って「愛」が芽生えるという伝説のポイントだ。 でも滑ってみると怖いどころか楽しく下りてしまった。
海岸に出ると、荒波が打ち寄せる岩場だった。 岩場を這うように生えているハマベンケイソウの青い花がいじらしい。 初めは海を間近に見てはしゃいでいたが、ガレた岩場はいつまでも続いていてコースが合っているか不安になってくる。 でも他に分岐はなかったのだから間違いない。 これって本当にハイキングコースというのかな、サバイバルコースじゃないよななどと心の中で半分楽しみつつ、岩の上を飛んだりまたいだり這ったりしながら少しずつ進む。
ようやく宇遠内の集落が見えて皆歓声をあげる。 浜で作業していた漁師さんが「遅かったなー」と一言。 いつも通るツアーよりもずいぶん遅れているようだ。 日暮れまでになんとか帰りたい。
再び山に登っていく。 登る登る。 歩く歩く。 皆無口になってただただ歩く。 道は歩きやすくなったが、新しい花も出て来ないし単調な林ばかりで、私も黙々と歩く。 この頃になると、ツアーのメンバーの調子がくっきり別れ、先頭集団と後ろの集団に2分化してしまい、先頭が先を急いで、時々立ち止まってしばらく後ろを待って、という繰り返しになってきた。 霧雨が出てきた。 とぼとぼ歩く。 ようやく礼文林道に出たが、それから先もまだまだ長かった。 林道といってもこの辺りは背の低い木が多く、頭の上に覆いかぶさる影はない。 とぼとぼと、もうすぐ現れるはずのレブンウスユキソウ(エーデルワイス)の群落を目標に歩く。
群落は急斜面にあり、道から見下ろすと下から霧雨が吹き上げる。 かっぱを着ていても顔はびしょぬれになった。 でもこんなところにひっそりと咲く小さな白い花の姿に少し感動した。
さあ、あとはYHに向かって歩くのみ。 単調な道なので時計を見ながら、何分たったから何km進んだと事務的に考えてしまう。 やっと車道に出たらYHのヘルパーさんが心配して車で見に来ていた。 「あと30分ですよー」と声をかけられ、今度は夕食を目標に歩き続けた。
YHについたら19時を過ぎていた。 すでにミーティングが始まっていたので、ヘルパーさん2人だけがひっそりと旗を振って我々を迎えてくれたのだった。 |