丹後半島、伊根町ツーリング。
1992年、夏の思い出。

 ある日、ある週刊誌を見ていて、旅心を誘う写真に出会った。
「唱歌の旅」という連載記事。
そこには、京都府与謝郡伊根町の風景写真と浦島太郎の唄が載っていた。
伊根町は日本海を臨む丹後半島の漁港らしい。
そして、浦島太郎を祭った浦嶋神社があるそうだ。

その写真は、
青い暗い海の向こうに、焦げ茶色にくすんだ「舟屋」がぎっしりと立ち並び、
その前に何隻かの小さな漁船が泊まっているというものであった。

その寂しげな日本海的生活臭というようなものに魅かれ、
私は旅立った。


(1992年8月15日〜16日) (1992年8月17日執筆、2004年8月30日改訂)

8月15日

名古屋-津島-養老-R365-木之本-R8-R303-マキノ-R161-今津-R303-R27-小浜-舞鶴-R178-宮津-岩滝町-丹後半島縦断林道-碇高原総合牧場

目覚ましを鳴らして、起きたら16時半になっていたという夢を見て、起きたら実はまだ9時だった。ほっ。
さあ、久しぶりのソロキャンプツーリングだ。出発。

さすがはお盆、いつもは空いている田舎道が今日は走りにくい。
少しいらつきながら走る。
365号線から木之本で8号線に出て、左に琵琶湖を見、303号線へ。
今津へと向かう。
空は青く、太陽が田んぼや山の緑に照り返す。
緑が目に染みるような風景の中を走るが好きだ。気持ち良いなあ。
小浜でやっと海沿いに出て西へと走る。
でも海はあまり見えない。
途中、広島ナンバーのGPZ900Rのライダーと抜きつ抜かれつ走る。

うーん、混んでいるなあ。
渋滞中の交差点内で、私の右にいた軽自動車がいきなりこちらへ車線変更してきて、暑さと血の気が一気にひいた。
はあ、間一髪・・・。
言ってもしょうがないが、「ばかたれっっっ。」

そうこうしているうちに、舞鶴を過ぎ、観光地天の橋立は無視して通過し、暑さを忘れて、人気のない丹後半島縦断林道を走ることにする。
この道は全線舗装。道幅1.5車線。GSなし。全長46km。
いいねえ。こういうへんぴな道は好き。
うねうね、黙々、嬉々として走る。
右に左にバンクさせる。
だんだん気持ちがよくなってくるぞ。
まるで、フロントタイヤで巨大な一筆書きをしているようだ。

さて、今日のお宿は林道沿いのキャンプ場。
世屋家族キャンプ村、「スイス村」と通るが、どうもこぎれい過ぎて雰囲気が合わない。
ファミリーオートキャンプ向けという感じだ。
しかたなく、もう少し先の碇高原の牧場のキャンプ場に腰をすえることにする。
水道がないけどいいや。
閉鎖されたレストハウスのトイレだけは開いているようだし。

今日の夕食はさっき下界で買った鳥肉とモヤシを煮て味噌汁のモトを入れるだけ。
それをパンをかじりつつ食べる。
それに奮発して買った一個158円の梨。
紅茶も沸かそう。
へへ、貧相な内容だけどなんだか優越感だもんね。

日が暮れて、橙色の満月が昇ってきた。
テントの中に寝ころんでぼーっとする。
向こうのテントからはナツメロが流れてくる。
ギターを弾きながら青年達が思いつく唄を歌っているらしい。
「いまどき(^_^;)」なんて思ったがなかなかうまい。
「いまはもう誰も」なんて歌っている。
ううっアリス好きだった。じーん。

それにしても、蚊がうるさい。
向こうのテントでは酔っぱらいがサザンの曲を同じのを何度も何度もかけている。
熟睡できないぞ。
くそっ、蚊に耐え切れず、蚊取り線香炊きしめ攻撃を開始する。
外に出るのが面倒なので人間も炊きしめられる。
臭い。暑い。
いいのだ。キャンプは野性的に行うべきだ。

8月16日

碇高原総合牧場-丹後半島縦断林道-上野-R178-網野町(琴引浜)-R178-経ケ岬-R178-本庄-名もない道-泊-R178-名もない道-伊根港-名もない道-R178-岩滝-R176-福知山-R175-R9-京都-R1-四日市-R23-名古屋

寝苦しい夜が明け、朝7時。
出発の支度を始める。
こういう時たいてい物好きな人が声をかけてくるものだ。
「これ何cc?名古屋から?ひとり?すごいねえ・・・」等々。
さっそく老夫婦と話をする。
この夫婦はここにもう4日もオートキャンプをしているらしい。
一昨日あたりは土砂降りだったらしい。
「がんばるねえ」なんて言ってくれたけど、それはそちらの方ですよ。

朝走るのは涼しくて気持ち良い。
一気に下界へ下り、鳴き砂で有名な琴引浜へちょっと道草をする。
しかし、砂浜へ降りてみると、砂は鳴らないし、海水浴客ばかりで、重装備の私は恥ずかしくなり、そそくさと引き上げた。

そして、海岸沿い178号線を右周りに本ツーリングの目的地伊根町へ向かう。
道の左側は急な段々畑の下に海が広がっている。
険しい岩に白い波がぶつかっている。絶景だなあ。

経ケ岬というところに灯台があるらしいので、ちょっと寄ってみる。
駐車場から歩いてへとへとになってたどり着いた景色はさすがにすばらしかった。

いよいよ伊根町に入り、本庄というところから脇道にそれ、浦嶋神社に寄る。
なんだかとても落ち着く場所だ。


またいつか来よう。
今度来る時は宝物館の玉手箱を見なくては。

そのまま、海沿いの名もなさそうな狭い道をのんびり走る。
泊〜新井間は通行止だったので、いったん178号線にもどる。

しばらく行くと伊根漁港という看板があったので左折。
するとあったあった。写真の町だ。

潮の匂いがする。
海沿いに狭い道が一本通っており、その両側に民家がぎっしり立ち並ぶ。
海側の家は一階が舟揚場になっている「舟屋」という構造になっていて、開け放たれた戸を覗き込むと、家の奥に海が見えた。

なんとも雰囲気のいい港だ。
海をみると透明な水の中で小さな魚がいっぱい泳いでいる。
人間も一緒に泳いでいる。
時間がゆっくり流れる。
バイクもゆっくり走らせる。

あんまり気持ちがいいので彼氏に電話してみる。
すると、今日は京都の大文字の送り火だと言う。
今は11時か。
よし、きまりだ。
私の生まれ(ただけの)故郷福知山を通って京都へ向かうことにしよう。

福知山には祖母が住んでいる。
昔はよくお盆に家族で遊びに行っていたが、自分でバイクで行くのは初めてである。
しかし、心の準備ができてないのに、あまりに簡単に祖母の家が現れたのでうろたえた。
孫娘がこんな汚い身なりでうるさくでかいバイクで突然押し掛けてはきっと近所の噂になってしまうだろうな。
といろんな想像をして結局家の前をそのまま通り過ぎた。・・・

気持ちを切り換え、9号線をただひたすら京都に向かう。
途中混んだりもしたが意外に早く2時間もしないうちに到着した。
早すぎたので駅前の喫茶で1時間ばかりアイスコーヒーでねばった。

そして、友人Bさんの家に押し掛け、3人で電車で大文字を見に行った。
きれいなもんだなあ。
でも街灯やビルが結構じゃまだ。
そういえば喫茶店のおばさんが昔はどこからでも見えたと言っていたな。
帰り道、かき氷を食べる。夏だ。

再びBさんの家にもどり、今度はいよいよ自分の家にもどるときだ。
ああ、早く風呂に入りたい。
一心でちょっと飛ばして、赤灯があちこちで回る23号線をひた走り、1泊2日の短い旅は終わったのだった。

旅って、あっけないなあ。すんでみれば。


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